新型コロナウイルスが中国の中小企業を圧迫「生きるか死ぬかの瀬戸際」

新型コロナウイルスが中国全土に広がる兆しを見せ、中国経済の停滞にさらに拍車をかけています。なかでも消費の低迷や、操業開始の遅れ、当局による交通封鎖などによって、中小企業が深刻な打撃を受けています。

新型コロナウイルスの急速な広まりは、旧正月シーズン中の増収を予測していた企業に冷や水を浴びせました。

湖北省は、省内の各種企業の操業再開時期を早くとも2月14日と定めたほか、上海、重慶、広東省などの多くの省や市も操業再開の遅延を再度通知し、多くの地域は企業の操業再開を早くとも2月10日に定めました。

また、各政府が実施した商業施設の封鎖や道路封鎖などの措置によっても、多くの企業が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされています。

ニューヨークタイムス紙は、今回のウイルス蔓延によって最も深刻な打撃を受けたのは、農業や商業に従事する数千万もの小規模事業者や中小企業だと指摘しています。中国経済の成長の鈍化と政府の過干渉という問題によってもともと疲弊していた彼らに対し、新型コロナウイルスの流行が追い打ちをかけたため、これらの企業が窮地に立たされることになりました。

中国のネット起業家の王晨昀(おう・しんいん)さんは個人ブログで「上海市政府は大型企業ばかりに関心を注ぎ、中小企業の死活問題には目もくれない。旧正月休みを2月9日まで延長しただけでなく、在宅で仕事する従業員に対し、二倍の賃金を支払うよう求めている」と怒りをあらわにしています。

また江蘇省のある農業従事者は「飼育している四万羽のニワトリが餓死しそうだ。と殺場と飼料工場が閉まっていて、今ある飼料も二日間で底を突く。さらに道路交通が封鎖されていては、遠方から飼料を見つけても運んでくることもできない」と吐露しています。

同紙は、これらの企業が直面している困難は、中国における抑制とバランスの欠如を表したものだと報じています。また中共の独裁中央集権制度によって、資源を動員して新型コロナウイルスの蔓延に対処するための大型インフラプロジェクトが立ち上げられたが、これは高官に過剰な権力が与えられることにもなり、司法権が独立しておらず、報道の自由もない中で、企業が当局の政策に対し抗議したり、助けを求めたりすることはほぼ不可能だとの見方も報じています。

湖南省チン州市の中国企業ウォッチャー、何軍樵さん
「経済問題はやはり彼の関心事ではないと考えている。この問題が政治のある分野に衝撃を与えるかどうかは分からない。これは個人的な判断だが、経済はこの国にとって最重要事項ではない。私はこれまでもずっとこう考えてきた。政治こそが永遠に一番大事なのだ。私は、今年は間違いなく危機が重なる一年になると思っている。彼らもまた、内憂外患になることを知っている」

中共財政部は先日、貸付において新型コロナウイルスの影響を受けた個人及び企業に対しサポートを提供すると発表しました。

しかし一方で同紙は、中共政府は実際には大型国営企業をサポートしつづける一方で民間の中小企業をないがしろにし、銀行も適切な利率で中小企業に貸し付けを行うのを渋っていると指摘し、財政部の指導方針があいまいなため、この状況を変えることはできないだろうと報じています。

湖南省銭糧湖鎮の独立起業家の周さんは、関連の政策が実施されているのを見たことがないと語っています。

湖南省の事業者、周さん
「私たちのような下々の人間は、上の人間の善意を感じられないし、彼らの関心と配慮も反映されていない。彼らは中小企業を守れと大声で叫んでいるが、実際には我々はそもそも疲弊しきっていて、もうやっていけないのだ。ぼろぼろで倒れそうなのに、またもや今回のような打撃を受けた。死人に鞭打つようなものだ」

中小企業は現在、中国のGDPの6割を支えており、都市部の雇用の8割以上を占めています。

しかし、損失を計算し口座の残高がどれくらい持ちこたえられるかを計算することが、新型コロナウイルスが広がる中、多くの中小企業に残された手段になっています。

中国の飲食チェーン企業、西貝莜麵村(せいばい ゆうめんそん)の賈国龍(か・こくりゅう)董事長は先日、「中国の旧正月前後の一か月間で、わが社は7~8億元(約110~126億円)の営業収入を失うと予想され、現時点での口座の残高に貸し付け分を足しても、最長で三か月分の賃金しか支払えない」と明かしています。

北京ダックの高級チェーンレストランの大董(Da Dong、だーどん)は、北京の二店舗を除く20余りの支店を閉鎖しました。董振祥(とう・しんしょう)社長は、二か月で事態が回復しなければ当社は倒産するだろうと明かし、政府が税金と賃借料を下げて、補助金を出してくれるよう望んでいると語っています。

ラジオ・フリー・アジアは、中国企業はウイルスの広がりだけを憂慮しているわけではないと報じています。昨年の景気低迷によって経済の全体的な傾向が明らかになり、消費の信頼が大きな影響を受けています。企業が慢性的な苦境に立たされる中、現在の新型コロナウイルス問題は、事態を急転させるほんのわずかなきっかけにしかならない可能性があるとも報じています。

中国の交通銀行金融研究センターが発表した報告書にも、中小型の生産・サービス企業は今、存続の危機に見舞われていると記されており、企業の連鎖倒産が始まり、投資が不利になり、債務不履行の波が押し寄せると、それらが銀行システムに伝わってシステミックな金融リスクが急増すると警鐘を鳴らしています。

 
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