文化遺産を軽んじる紅三代 故宮は「ベンツ女」について説明せず院長が一方的謝罪

革命に参加した中共幹部の孫、いわゆる紅三代が高級車で故宮博物院内部に乗り付けた事件が、規定を無視して貴重な文化遺産を傷つけたとして多くの中国人から怒りを買っています。ある評論家は、中共のいう「文化財保護」は詐欺のようなもので、彼らが実際にやっているのは中国の文化遺産を金儲けの手段にして消費することだけだと指摘しています。

北京市中心部に位置する故宮博物院の東華門、西華門、神武門などの場所にはすべて、「官吏などはここで下馬せよ」と刻まれたいわゆる「下馬碑」(げばひ)が設置されています。ここがかつて紫禁城と呼ばれた明・清代には、皇帝の家族が皇帝を訪ねるときでさえも、乗物から降りて歩いて入るよう求められていました。

紫禁城が故宮博物院と名を変えた今でも、すべての訪問者は歩いて城内に入らなければなりません。たとえ外国からの賓客であっても、故宮博物院を訪れる際には車両での乗り入れは午門(ごもん)までと定められています。しかしこの規定を破ることのできる人物が現れました。

1月17日、中共老幹部の孫の嫁、高露(こうろ)が中国のSNS「ウェイボー」に、友人と二人でメルセデスベンツのオフロード車で故宮博物院内に乗り入れ、その写真を撮影して「故宮に来てはしゃいでいます」とのコメントを付けて投稿しました。

米国在住の評論家、邢天行氏
「金持ちの女性がオフロード車で故宮に進入するという今回の一件で明るみに出た情報から、彼女は一つの例に過ぎないということがわかる。つまり彼女の金持ち自慢から、彼女の背後には様々な階級の高級官僚一家や、政府と結びついている人物がおり、彼らが故宮に入って高級車を走らせることができるのが明らかになった」

故宮博物院は2013年から車両の進入を禁じており、その目的について当局は「文化の尊厳を守るため」と説明しています。しかし今回の件で、実は多くの人が故宮内で車を走らせ「文化の尊厳を踏みにじっている」ということが明らかになりました。

米国在住の評論家、邢天行氏
「文化に対するこうした態度は、彼らが文化に対し無知であることを示している。同時に、中共政府は文化財保護という観点において、国民を騙すためのプロパガンダを一貫して行ってきた。故宮のような文化遺産は中国の多種多様な文化遺産を内包している。彼らはそれを観光ツール、観光資源とし、これら(の価値)をすり減らしてきた」

雑誌「北京の春」の名誉編集長、胡平(こへい)氏は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、今日の中国社会は恥を知らないと痛烈に批判し、社会に恥知らずでいられるようなムードが漂っていると指摘しています。

高露によって注目を浴びた中国特権階級の腐敗については、何の説明も行われず、かえって故宮博物院の院長が謝罪するという事態になりました。1月21日の深夜12時半ごろ、院長はウェイボーを通じて異例の謝罪を表明し、「当日は催し物の関係で、停車位置の変更が一時的に許可されていた。さらに今回の事件によって北京故宮の内部管理や社会サービスに不備があることが明らかになったため、故宮分館の副院長と警備処の処長を停職処分として調査する」と記されていました。

故宮側は、女性がどうやって車で内部に入ったのか、どの門から入ったのか、誰が許可したのかといった疑問について説明を行っていません。これについてあるネットユーザーは、「何の催しがあったんだ?ウェイボーで『故宮に来てはしゃいでます』といった投稿をした理由は何だ?グループではしゃぐ催しがあったのか?深夜の謝罪発表は裏があるのではないのか?故宮は車を乗り回した人物をとがめず、スタッフを非難するのか」と怒りをあらわにしています。

胡平さんは、今回の件で明らかになった特権階級の腐敗の実態について、庶民が関連組織に追跡調査を求めているのは明らかで、彼らは故宮側に、何の根拠があって彼女らに乗り入れを許可したのか、どんないきさつや背景があったのかといった、今回の事件がおきた経緯の説明を求めていると考えています。しかしこれらについて故宮博物院は口を閉ざしたままです。

故宮博物院は中国で最も重要な文化的重要性を備えていますが、ベンツ一台ですら制止することができません。これとは対照的に、中華文化の伝統を比較的完全に保全している台湾では、文化財の管理に厳格な基準が設けられています。

台湾故宮博物院スタッフ
「歴史遺産は人類共通の文明遺産ですから、我々は人類の文化遺産を守る守護者と言える。誰であろうと我々の見学規定に従わなければならないし、例外はない。すべての規定は文化遺産を安全な環境下におき、後世の多くの人たちがこれらの貴重な文化遺産を見られるようにするためのものだ」

50年前、中国で文化大革命の嵐が吹き荒れ、膨大な数の文化遺産が破壊されました。そして現在の中共「紅三代」は文化遺産の保護に目もくれません。2011年にも故宮では展示物が盗まれたり、建築物が富裕層の高級クラブに改装されたり、文化財が破損されるなど、様々な事件がありました。当時の故宮博物院院長は、故宮の管理については多くの問題と抜け穴があると漏らしています。こうした問題と抜け穴は、今も拡大し続けているようです。

 
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