シリーズ【百年紅禍】文化大革命の狂気 罪悪感のない大量殺戮

中国内陸部の長江南岸に位置する広西省は、1966年から1976年の文化大革命の動乱で、膨大な数の犠牲者を出した地域です。死亡者は少なくとも15万人とみられ、そのうち96%が迫害によって命を落としました。戦争中でもないこの10年間に、共産主義が人々のイデオロギーを疎外したことで中国人同士の殺戮が生じ、中国史に最も悲惨な歴史を刻みつけました。

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授

「撲殺、溺死、銃殺、刺殺、斬殺、車で引きずり回して殺す、生きたまま体を切り落とす、吊り下げる、大勢で取り囲んで暴行を加えて殺す、腹を裂いて肝臓を切り落とす、両手両足を引っ張る、わざと的を外しながら銃で撃つ、水責めにする、犬の尿を飲ませる、ズボンを脱がせて街を歩かせる、太ももとひざの関節に耐えがたい圧力をかけるといった刑罰が200種類以上も行われていた」

これらは文革中の殺人・拷問方法として『広西文革機密檔案資料(広西省文革機密文書資料)」に記載されています。この資料は合計36巻、700万字からなる機密資料で、宋永毅(そう・えいき)教授を始めとする研究チームによって編纂(へんさん)されました。内容は中国共産党中央が文革後に作業チーム3つを派遣し、さらに広西省委員会が10万人を動員して、5年をかけて整理した『広西「文革」檔案(とうあん)資料』に基づいたものです。

中国政府の背景を持つこの機密資料には、15万人が異常な死に方をしたと記録されています。

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授
「広西省のこの文書の調査書に、死亡した人々のうち、戦闘で死亡した者、つまり派閥の勢力争いの中で死亡したのは3312人だったと記されている。

戦闘以外で無差別に殺された者、迫害により命を落とした者、行方が分からなくなった者は約96%だ。このことから、彼らはほぼ迫害により殺されたことが分かる」

こんなにも簡単に、大量殺人の対象にされたのは、どのような人たちだったのでしょうか。

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授
「この大虐殺は主に2つのタイプに分けられる。1つは『四類分子とその家族』の惨殺だ。

これは地主、富農、反革命分子、右派などの「黒五類」とその家族で、理屈の上では家族には罪はないが、出自がよくないというだけで殺された」

「黒五類」とは、共産党政権成立後の最初の30年間における政治的賤民階級で、早くから抵抗できない状態まで迫害されていました。

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授
「人が人を殺すときには罪悪感が生まれるはずだが、豚を殺すときには感じないだろう。文革中や文革前のいわゆる黒五類や反革命分子は豚や犬以下の扱いを受けていた。

広西省での大量殺戮が準備されていたころ、一度も「殺人」とは言われなかった。この文書の中では『革命委員会の成立を祝うため、我々は豚どもを殺す』と記録されていた」

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授
「殺りくの本質に は原則がない。あなたの成分はこれだと確実に言えるわけではないし、もし成分がよければ、彼らはほかの手段を講じることもできた。

彼らは階級の敵を必要に応じて好きなように設定することができた。あなたの過去が潔白であっても、彼らは無実の罪名をでっちあげて、あなたをどこかの反革命組織に放りこむことができた」

広西省では当時、反革命組織がさまざまな形ででっちあげられました。例えば楽業県では「反共産救国団」など19ものいわゆる「反革命集団」が探し出され、県の革命委員会によって残酷な手段による追及が行われました。その結果について『300人あまりの幹部民衆が…殴られ、拘束され、裁判にかけられた。そのうち12人が撲殺や銃殺で命を落とし、40人あまりが拘束され、37人の体に障害が残った』と記されています。

この「大衆による独裁政治」による大量虐殺において、最も中心的な働きをしたのが武装階級末端幹部の民兵でした。「黒五類」の絶滅だけでも革命の口実にできるのに、なぜ他の幹部や民衆までも「黒五類」にでっちあげたのでしょうか。

米カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校図書館 宋永毅教授
「大量が虐殺の本質だが、殺りくは命を絶つことが目的ではなく、人殺しをする感覚と心理的な快感を求めるために行われていた。

例えば、彼らは対立する2つの派のグループ長を互いに向かい合わせて杭に縛り付けると、刃物で彼らの肝臓をえぐり出した。

一人が見ている前でもう一人の肝臓を切り落とし、それから見ていた人間にも同じことをした。しかも絶命を長引かせるため、じわじわと切り落とした」

さらに、殺戮にはさらに卑劣な目的もあったのです。

殺人を犯しても罪に問われるどころか甘い汁が吸え、さらに地方政権からも奨励されたことで、広西省で罪悪感のない大量虐殺が狂暴の域に達し、人肉食という狂気が荒れ狂いました。

 
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