焦点:日本の原発「静かな復活」、伊方再稼動に沸く期待と不安

[伊方(愛媛県) 2日 ロイター] – 四国電力<9507.T>は、再稼動した伊方原子力発電所3号機の発送電を10月30日に開始した。東日本大震災から8年近くがたち、国内各地で原発が再稼動している。

電力会社は専門知識を持つ弁護士を雇い、反対住民らによる訴訟で次々と勝訴している。ロイターは今年10月、伊方町とその周辺の町で、町長やミカン農家、原発とともに暮らす人々に取材を行った。

伊方原発から15キロほど離れた八幡浜市で、シャッターが目立つ商店街にある寿司屋「すし光」は平日にもかかわらず、珍しく混んでいた。

「ここはみんな原発賛成。そう書いてもいいよ」──。飲み物を乗せたお盆を運びながら、女将の尾崎佐智代さんは言う。「お客さんのほとんどは原発関係者。この人は、原発で働く人をミニバンで運んでる」と、配膳しながらカウンターの客の1人をゼスチャーで指し示した。ビールを飲んでいる別の客に対しては「この人は建設会社だから、こっちも忙しいの」と紹介した。

伊方原発の再稼動を控え、近所のホテルや旅館は、再稼動に携わる人たちで満室だった。

東日本大震災で東京電力<9501.T>福島第1原発がメルトダウンを起こしてから、いったん全ての原発を停止した電力会社は、静かに再稼動を進めている。伊方は、その代表的な存在だ。

広島高裁は今年9月、伊方原発3号機の運転を差し止めた仮処分決定を取り消した。その結果、原発は約1年ぶりに再稼動されることになった。

2011年以降、多くの原発関連訴訟が起こされ、電力会社は反原発派の弁護士との長い戦いに臨みながら、地元住民に対し理解を求め続けた。

そうした戦略が功を奏し、現在国内で8基の原発が稼動されている。震災前の54基には遠く及ばないが、アナリストや電力会社が当初予想したよりは多い。

<裁判闘争>

日本は戦後、クリーンエネルギーとして、また化石燃料の輸入に依存しないため、原子力発電を推進してきた。

しかし福島の事故によって、原子力産業と政府への不信感が強まり、国民は原発に批判的になった。近年、電力会社が裁判で勝訴し、原発が再稼動されていることで、原発の建設を支えてきた「電力会社、政府、地元」の強力なトロイカ体制の復活とみる向きもある。

四国電力を相手取った裁判で市民側についた反原発派の河合弘之弁護士は、このまま原発反対派が負け続けると、20基から25基の原発が再稼動される、と危惧する。

2011年以降、数百人の市民が河合氏のようなボランティアの弁護士とともに、全国25の地裁、高裁で政府を相手取り、50件もの訴訟を起こした。

四国電力は、伊方原発再稼動の承認を得るのに何カ月も費やし、3基のうち、廃炉を決めた2基を除く1基を2016年に再稼動した。

しかし、2017年12月、広島高裁は運転を差し止める決定をした。これを受け、四国電力は法務部の人員を増強、他の原発訴訟を担当した弁護士と契約した。

原発訴訟に詳しい弁護士は少ないため、電力会社からは引っ張りだことなる。山内喜明氏(76)もそうした弁護士の1人だ。1973年に伊方町の住民が原子炉設置許可の取り消しを求めて起こした裁判で、四国電力の代理人となったのが始まりだった。

現在も四国電力の代理人を務め、ほかの電力会社の多数の訴訟案件に関しても、アドバイスをしている。  山内氏は、最近の訴訟について、本質的な議論にならず、「表面的」な議論になっていると指摘する。また、電力会社が、廃炉にする原発と動かすものをはっきり分けて対応するようになったとし、すでに3基ある原子炉のうち2基の廃炉を決めている四国電力は「電力会社の中でも一番賢明だと思う」との見方を示した。

四国電力は、これまでの訴訟にいくらかかったか明らかにしていないが、原子炉を止めるコストと比べると大きくはない。

四国電力では、1カ月原発を止めると、それを補う電力確保に35億円の費用がかかると説明している。

さらに福島原発事故後、規制が強化されたことに伴う安全対策に、同社は1900億円を投じた。

反原発派はいくつかの裁判で勝訴している。関西電力<9503.T>は、何度も裁判所の仮処分決定を受け、高浜原発などの原子炉を一時停止した。だがその後、決定は高裁で覆された。

住民側で原発訴訟を戦っている海渡雄一弁護士は「以前は原発訴訟というのは、デフォルトで向こう(原発側)が勝てるような訴訟だった」と話す。

四国電力は、現在もいくつかの裁判と差し止め訴訟を抱えている。広島高裁は、伊方原発3号機の再稼動が予定される日の前日(10月26日)に、住民が運転差し止めの期限延長を求めた仮処分の申し立てを却下した。

<交付金に頼る町>

原発産業の静かな復活は、伊方町のような地方の町で起こっている。ミカンの産地として知られる伊方町は、瀬戸内海と宇和海に囲まれた人口約9500人ののどかな農村だ。

町の歳入予算が約100億円で、原発交付金等がその3割を占める。1974年以来、伊方町は総額1017億円もの交付金を受け取っている。道路、学校、病院、消防署、祭りに使う太鼓までもが交付金で賄われた。

高門清彦町長はロイターのインタビューで、原発交付金に依存する町の現状について「原発以外にもう1本、もう2本柱を、地域として町として目指す柱を作り上げたい。それが一番の大きな課題だと思っている」と語った。

伊方町と四国電力の相互依存関係の始まりは、半世紀ほど前にさかのぼる。中元清吉・元町長(90)は、当時、町議会議員として原発の誘致に尽力した。自宅の壁には、当時の総理大臣から送られた、日本のエネルギー政策への貢献に対する感謝状が掲げてある。

「その当時は農業、漁業しかなかった。貧乏村で、財政再建団体とされ、町営事業もやれない状態。原発を誘致して財政の再建をしなければ、町の発展はできないような状態だった」と話す。

福島原発事故を受け、四国電力は住民に安全性を訴えるキャンペーンを行った。青いユニフォーム姿の社員が、住民の家を1軒1軒回り、伊方原発の安全性を説明した。

ミカン農家を営む須加成人氏(54)は「何らかの事故が起きて福島みたいなことになったら、125年間かけて作ってきた産地が一瞬にしてだめになる」と不安を訴える。

住民の多くにとって、原発は生活の一部だ。大森裕志氏(43)は今年の夏、子どもをつれてよく四国電力の「伊方ビジターズハウス」に通った。この施設は原発のPRと同時に、無料の絵画教室など、住民への様々なサービスを提供している。

最近、ビジターズハウスでは、来客にバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットを提供し始めた。ヘッドセットをかぶると、3D映像で映し出された伊方原発の上空をバーチャルに飛ぶことができる。しかし、ある週末に訪れてみるとビジターズハウスは閑散としていた。

伊方町は、今後20年間に人口が5000人まで減少すると見込まれている。高門町長は、原発に替わる産業を探すべく葛藤している。

今年になって全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)にも参加した。全原協は政府に対し、原発の新増設や建て替えに関する方針を明確にすることを求めている。

「人口はどんどん減っている。人口減少のカーブを少しでも和らげるのが一番の課題」――そう高門町長は話した。

(斎藤真理 翻訳:宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

 
 
 

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