インターポールからWTOまで 中国政府当局者、各主要国際組織の要職に就く

中国公安部次官で、国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)の孟宏偉(もう・こうい)前総裁の失脚騒動を端に、ICPOのほか国際貿易機関(WTO)や国連の各主要機関でトップなどの要職に就く中国政府当局者が意外と多いことがわかり、その実態を調べてみた。

◆国際刑事警察機構(インターポール、ICPO)

2016年孟氏の総裁就任後、ICPOの国際手配制度のひとつ「赤色手配書(国際逮捕手配書)」が乱発したという指摘が各方面から出ている。

米フォーブス誌は「2016年のICPO発行の赤色手配書の54%以上は同組織の規約に反するもの」と伝えた。

米政府に保護されている中国著名の民主活動家・魏京生(ぎ・きょうせい)氏は米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材で、自らも一時期ICPOに赤色手配書を発行されて監視されたと話した。

国際人権組織ヒューマン・ライツ・ウォッチは昨年、孟氏主導下のICPOは人権保護の主要原則を全うしていないとする内容の公式書簡を公開した。

◆世界貿易機関(WTO)

159カ国が加盟し、国家間のグローバルな貿易の規則を定めるWTO。

中国のモノ(物品)の貿易総額が米国を抜いて世界一位に躍り出た2013年に、中国政府の推薦するブラジルのアゼベド氏がWTO次期事務局長に選出され、そして、中国商務部次官の易小准(えき・しょうじゅん)氏を4人の事務局次長の1人に任命した。同ポストの中国出身者は初めてだった。

易氏に任された知的所有権部などは、欧米諸国が長期以来、中国に改善を求めている分野ばかりだ。

中国の匿名経済学者は、中国政府がWTO加盟時に締結した45項目の約束事項のうち、半数近くは着実に履行されていないと指摘した。

近年、WTOで米国を抑止するなど中国政府の発言権は着実に強くなった。トランプ米大統領がWTO離脱をほのめかす背景には、こうした事情があると思わる。

◆国際通貨基金(IMF)

国際金融ならびに為替相場の安定化を目的として設立された国連の専門機関であるIMF。加盟国は189カ国。

2011年、IMF副専務理事に中国中央銀行の朱民(しゅ・みん)副総裁が選出された。4年後の2015年、IMFは中国人民元を、従来の米ドル・ユーロ・円・英ポンドに加えて5番目の仮想通貨(SDR)と許可した。それによって人民元の信用が一気に押し上げられた。

その反面、人民元のSDRとしての適格性が問われており、米国はたびたび、中国を為替操作国と批判している。

朱氏の後任となる張濤(ちょう・とう)現副専務理事は米中貿易摩擦に関して、米国非難・中国擁護の発言を繰り返している。

◆世界保健機関 (WHO)

同じく国連の専門機関で、194の国・地域が加盟するWHO。2006年、その事務局長に陳馮富珍 (マーガレット・チャン)香港衛生署長が選出された。

陳氏は10年の任期中に、受刑者の臓器使用疑惑が持たれている中国政府が内外にアピールしている「臓器移植改革」をいろいろな場で評価するなど、同臓器問題の火消しに躍起になっていた。

◆国際連合工業開発機関 (UNIDO)

UNIDOは開発途上国の経済発展と工業基盤の整備の支援を目的とした国連の専門機関で、167カ国が加盟している。

2013年、UNIDOの事務局長に中国財政部次官の李勇(り・ゆう)氏が就任し、現在に至っている。

李氏は、巨大経済圏構想「一帯一路」「中国製造2025」などの中国国家戦略について、UNIDOとして支持・協力する姿勢を明確にしている。

一方、「一帯一路」は、融資先相手国を借金地獄に陥らせて最終的に植民支配するのが狙い、といった懸念が国際社会で広がっている。

◆国際電気通信連合(ITU)

国連の専門機関であるITUには193カ国・地域が加盟、無線通信と電気通信分野で各国間の標準化と規制づくりを統括している。

2015年、第19代目事務総局長に中国元郵電部幹部の趙厚麟 (ちょう・こうりん)氏が選出された。中国出身の事務総局長は同150年の歴史ではじめてだった。

同氏は就任後、国際通信業界の各種国際標準の策定に中国企業の参加を後押ししている。その一方、専門家などは、中国の製品が国際標準として汎用性をもつと、地球規模で通信の安全が脅かされると警鐘を鳴らす。

国連副事務総長職は、国連安保理常任理事国5カ国からそれぞれ1名拠出する仕組みであるため、中国からの劉振民 (りゅう・しんみん)同副事務総長はたびたび国際重要の場で、中国政府の理念を取り上げて擁護している。

中国出身者がこれら主要な国際組織の要職、ひいてはトップに選出される背景には、中国政府が全56ヵ国のアフリカ国家の多くを味方にとりつけて重要な「票田」にしたという裏事情がある。

VOAは某国外交官の匿名見解として「中国政府は国連を支配しようとしている」と評した。

英BBCは、中国政府は国連人権理事会、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)を離脱した米国の空白を補おうとしていると報じた。

AFP通信は、2017以降の国連で、中国政府はアフリカに関する事務のほか、目下の2大重大課題となる北朝鮮とミャンマー問題で主導権を握っている、と評した。

2019〜21年度国連通常予算で、中国の分担率は12%台に上昇、はじめて日本を上回って米国に次ぐ2位となる。国際社会での中国の発言権がさらに強くなりそうだ。

中国共産党の歴史に詳しい専門家は先進諸国に対して、世界秩序を主導しようとする中国政府の動きをしっかりと見極めて、抑止策を取るべきと進言している。

 
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