弓職人の妻、機転をきかせて王に嘆願する

春秋時代、晋の国に弓職人がいました。彼の妻は役人の娘でした。晋の平公は、弓職人に弓を作るように命じ、弓職人は3年かかって完成させました。

しかし、さっそく弓の出来栄えをチェックしてみたところ、弓から放たれた矢が甲冑の1層目を貫通することができませんでした。平公は激怒して、弓職人に死罪を命じました。

『列女伝』より

弓職人の妻は平公に会わせてくれるよう依頼しました。彼女は平公に王についての3つの短い物語を話しました。

最初に、彼女は平公に、周王朝の創始者の先祖であった公劉(こうりゅう)の話を知っているかと尋ねました。

彼女は言いました。「公劉は民を愛していました。民の大切な農作物が牛によって踏み荒らされたことを知ると、彼はひどく心を痛めました。民の農作物さえ大切にしていた徳のある公劉であれば罪のない人の命を奪うことはないでしょう」

「秦の穆公(ぼくこう)は、大好きだった馬のうちの1頭が行方不明になったとき、その馬を探し回り、盗賊集団がごちそうにしようと彼の馬を殺しているのを見つけました。彼は盗賊たちに『おまえたちはワインなしに馬肉だけを食べるのか?私は、ワインなしで馬肉を食べると命を失うかもしれないと聞いたぞ』と尋ねました。穆公は盗賊たちを殺すのではなく、彼らにワインを与えました。3年後、晋の国が秦の国を攻撃してきて、穆公は敵に包囲されました。穆公の親切に対して恩返しをしようと、穆公の馬を食べた盗賊たちは命をかけて彼を逃れさせようと奮闘しました」

「そして、楚の荘王が開いた晩餐会で、突然明かりが消えました。そのとき誰かが女王の衣装を強く引っ張りました。女王の反応は素早いものでした。彼女は、その人物の帽子についていた顎ひもをつかんで、強く引っ張り、引きちぎりました。彼女は荘王にその人物を罰するように頼みました」

「しかし、王は『私は廷臣や役人たちを芳醇なワインでねぎらっていたのだ。そうしたら、彼らは酔っぱらって不適切な行動をしてしまった。私はそのことを彼らのせいにすることはできない』と言いました。王は命じました。『さあ、今日は帽子についている顎ひもを引きちぎって、心ゆくまで飲もう』そして、皆が王に言われたとおりにしました」

『列女伝』より

「楚と晋の間で戦争になったとき、晋に対するすべての戦いでいつも先頭に立って勇敢に戦った人物がいました。荘王は、なぜこの人物が敵と戦うために全力を尽くすのかわかりませんでした。その人物は答えました。『私が、女王殿下によって帽子の顎ひもを引きちぎられた人物です』王が彼を罰しなかったので、彼は王の親切に報いるためにいつでも命を捨てる覚悟ができていたのです」

弓職人の妻は続けました。

「これらの3人の徳のある王たちは親切で、今日に至るまで民に慕われています。堯(よう)皇帝は藁ぶき屋根の小屋に住んで、質素な生活を送りました。しかし、それでも皇帝は、小屋を建設した人たちの生活はきつすぎ、小屋の中に住んでいる人たちの生活は楽すぎると感じました」

「私の夫はあなたのために同じくらい一生懸命働きました。彼は太山から弓を作るための木を選び、装飾品を作るために牛の角を使いました。それから彼は弓の弦を作るためにシカ科のシフゾウの腱を使いました。そしてすべてを魚のゼラチンを使って組み合わせました。これらは彼が見つけることができた4つの最高の材料です。あなた様が甲冑の1層目でさえ貫通させられなかったのは、あなた様に技能がなかったからです。それが理由で私の夫を殺したいというのはおかしくありませんか」

「私は、矢を射るときは、左手のこぶしを握りしめなければならないと伺いました。まるで石をたたくときのように。その際、右手はまるで枝を持つように弓を持たなければならないそうです。右手が矢を放すと、左手は何も感じないはずです。それが弓道のあるべき作法です」

平公は彼女の説明にしたがって矢を放ったところ、矢は甲冑の7層目まで射貫きました。彼は弓職人を解放し、金60両(2.2kg)を褒美として与えました。

弓職人の妻はとても賢い女性でした。彼女は夫の命を助けることができただけでなく、平公に仁政を施すことの大切さを教えたのですから。

『列女伝』(れつじょでん)より

 

 
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